東京高等裁判所 昭和57年(行コ)221号 判決 1983年2月23日
控訴人(原告) 藤波運輸有限会社
被控訴人(被告) 埼玉県知事
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取り消す。控訴人が昭和五五年一〇月二日届け出た一般区域貨物自動車運送事業の事業計画変更(使用車両の代替)届に対し被控訴人が同年一一月一日行つた不受理処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人の追加的主張
1 一般区域貨物自動車運送事業を開始する際の事業計画においては審査の対象となつていない石油類等の運送に使用するため、従来の運送事業に使用してきた普通自動車一台を特殊車両のタンクローリー車一台に代替することは、軽微な事項である事業用自動車の「種別ごとの数」の変更として被控訴人に対する届出事項とされている。他にも、鋼材の運送等同様に取り扱われ処理されているものである。霊柩運送のための使用車両の代替についても同様に考えるべきである。このように道路運送法施行規則一四条一項四号に軽微な事項として定める事業用自動車の「種別ごとの数」の変更は、使用車両の代替を規定しているものであるから、その車両代替の結果、その使用車両の用途によつて運送する貨物の内容が異なることになることは必然的なものとして予想されていることであり、従来もそのようなものとして取り扱われてきたものである。
2 前述のとおり、控訴人の受けた一般区域貨物自動車運送事業の免許内容は、輸送する貨物につき何らの制限のないものである。即ち、その免許を与える際に行なわれた審査(法六条)は、霊柩運送を含めて需給調整等の基準に適合するものとして行なわれ控訴人に免許が与えられたものである。しかるにその後、控訴人が既に免許をうけた筈の霊柩運送を開始しようとする場合、その需給調整等のためあらたに別の霊柩運送としての運送事業免許を受け、あるいは事業計画変更の認可を受けなければならないとすることは、当初の受けた免許が全く無意味なものになり、違法に控訴人の免許を制限する結果になる。控訴人が霊柩運送を行うことは当初から予想されることであり、免許後の事業開始自体についての調整等の審査の問題は考慮の必要がないものである。霊柩運送について、需要調整等の審査が必要になると考えられるのは、控訴人が事業用自動車を全部霊柩運送に使用したうえ、さらにその事業用自動車の総数を増加させるような場合についてである。
二 被控訴人の右主張に対する反論
1 控訴人の1の主張において、同人が石油や鋼材の運送事業用車両の代替をしようとする場合であれば、控訴人の主張するような「軽微な事項」として取り扱われるであろうことは認める。
しかしながら、控訴人が例示しているような輸送品目の変更(例えば普通自動車を石油輸送のためタンクローリー車に代替すること)は、通常の一般区域貨物自動車運送事業経営において常時予想される事柄であり、輸送品目が変更されても、一般社会における経済活動のなかで発生する輸送需要としては共通する性格を有する分野と考えられるのである。これに対して、霊柩自動車運送事業の輸送客体である遺体は、右運送事業の需要が急激に増大することが考えられず、地域の人口、死亡率等を配慮しながら需給調整を行う必要があることからみて、他の輸送品目とは大きく性格を異にするものであつて、控訴人が例示している石油類、鋼材等と同一に論ずることはできない。
2 控訴人の2の主張事実は否認する。
控訴人が免許の取得にあたつて提出した免許申請書記載の輸送品目のなかに霊柩の輸送は含まれておらず、従つて当然のことながら、霊柩の輸送を想定して免許がなされていないし、控訴人自身もその輸送を事業計画の内容としていなかつたのである。勿論免許取得後、当初の免許申請計画に記載されていない貨物の輸送を行う必要が生じた場合に、これを行うことを妨げるものではないが、霊柩の輸送はその特殊性故にこれから除外して取り扱つており、控訴人に対する通常の一般区域貨物自動車運送事業免許にかかる免許状には、霊柩の輸送を除外する旨の明示の記載はなされていないけれども、霊柩運送事業免許状には、「業務の範囲は霊柩の運送に限る」と常に明示され、他の免許の中に包せつされて霊柩の運送が免許された例はない(乙第九号証)。従つて霊柩運送にはこの限定免許状が必須のものであつて、これを得ていないかぎり霊柩運送事業の免許を得ていることにはならない。控訴人から出された一般区域貨物自動車運送事業免許申請の処理に当つて行われた審査においても、控訴人が主張するように霊柩運送を含めて需給調整等を行つた事実はない。このことは控訴人の事業計画書に霊柩に関する記載がなかつたこと、またその資料が添付されていなかつたことからしても、控訴人自身がもつともよく承知しているはずである。
三 新たな証拠関係<省略>
理由
当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきであると判断するものであつて、その理由は原判決がその理由中に説示するところと同一であるから、その記載を引用する。なお、当審における控訴人の追加的主張については、その主張自体が被控訴人の反論のとおり失当であり、控訴人提出にかかる甲第一一号証の一ないし六をもつてしても前記の判断に何ら影響を与えるものではない。
よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 森綱郎 藤原康志 小林克已)